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| No.4 川田正子さん(歌手) |
| ●8歳で童謡歌手としてデビュー |
| 「私、小さいときは、気管や胃腸が弱くて、おとなし〜い子どもだったの。母は、そんな私のことを心配して、(童謡作曲家の)海沼実先生のところへ歌のおけいこに通わせたの。 ほら、しゃべったり、うたったりするにはパワーが必要でしょ。ちょうど小学校2年生の時だったわね」。 歌を始めてからは、不思議なくらい、パワーがみなぎってきた。レッスンを受けること一年間。初めて出場した関東児童唱歌コンクールで優勝を果たしたのである。昭和 18年の出来事だった。 まもなく、初の“童謡歌手”としてデビュー。NHKの「子どもの時間」で「汽車ポッポ」などの童謡をうたい、人気を博した。 「あのころは“空襲の音を聞かない日はあっても、川田正子の歌を聞かない日はなかった”と言われるほど、一日に何回も私の声がラジオから流れていました」。 当時のラジオ番組はすべて生放送。空襲警報が出ると、交通機関がストップするため、7時半からのゴールデンアワーに出演する大人の歌手がスタジオに来られなくなる。そのため、NHKのすぐ近所に住んでいた彼女が急きょ、呼び出されて、代理としてうたうこともしばしばあったという。 「今だったら、レコードを流せば済むことですけどね(笑)。ですから、あのころは、二葉あき子さんとか並木路子さん、藤山一郎さん、田端義夫さんなどの大人の歌手の方に混じってスタジオでうたっていたんですよ、子どもながら…」 |
| ●「みかんの花咲く丘」の誕生 |
| ヒット曲「みかんの花咲く丘」ができたのは、昭和21年8月。小学校6年生の夏休みのことだった。 ラジオの新番組「空の劇場」の公開生放送が静岡・伊東の西小学校体育館で行われることになり、前日、海沼氏と一緒に、伊東に向かった。 「先生が“ま〜ちゃんに新しい歌を作ってあげよう。みかんの歌がいいね”とおっしゃったの。でもね、当時は並木路子さんの“りんごの歌”が流行っていたから作詞の加藤先生が“みかんの歌じ ゃ二番煎じみたいでイヤだ”と言って、曲のタイトルを“みかんの花咲く丘”にしてくれました」 歌詞(加藤省吾氏の作詞)はすでにできており、海沼氏は列車の中でイメージをふくらませながら、曲を作っていたという。 「私は向かいの席にすわって黙って見ていました。先生は長野県出身でしたから、あまり身近に海をご覧になったことがなかったのね。ですから、列車から海が見えてきたころ、ようやくイメージがわいてきて、書き始められたようです」 列車が大磯を過ぎて、国府津・小田原に向かうころ、車窓に広がる神奈川の青い海が、名曲誕生の瞬間に力を与えたのかもしれない。そして、この曲が多くの人に愛された理由は、独特のリズムにある。 「戦争中の歌というのはほとんどが4拍子とか2拍子とか、行進のリズムでした。でも、“みかんの花咲く丘”は8分の6拍子なんですね。それまで、あまり日本人が書かなかったゆったりしたリズムで、軍歌っぽくなかったから、新鮮だったんでしょうね。それに叙情歌でしょ。戦争中は叙情歌なんてうたえませんでしたからね」 |
| ●子どもの音楽教育に尽力 |
| ずっと、歌手として第一線でうたい続ける一方、音羽ゆりかご会の発展にも尽力。昭和54年には、森の木児童合唱団を設立。長年にわたって、後進の育成に努めてきた。 「合唱っていうのは、みんなで助け合わないとできないものでしょ。ソプラノ・メゾ・アルト、みんながそれぞれの声をきいてハーモニーを作っていかなければ、人の心を感動させられません。そのためにはみんなが仲良くしなくちゃいけないし、合唱を通して、温かい心、人を思いやる心を養った子が大きくなって、だれからも好かれる人になってもらいたいの」 現在、合唱団には小学生から大学生まで35名のメンバーが在籍。23年前からはじめた定期公演では、毎年、子どもたちと一緒にミュージカルに挑戦している。昨年の夏には「サウンド・オブ・ミュージック」を上演。18歳のマリアの役を見事に演じた。 「ミュージカルは大変! 高校生と一緒に走ったり動いたりするのは本当に大変なのよ。演出の先生にも“あまり走らせないで。子どもを中心にしてね”ってお願いしているのよ(笑)。 でもね、私は、子どもたちみんなに光をあててあげたいの。ずっと合唱をやってきて感じたことは、歌の上手な子はソロができるけど、いい声じゃない子にも、ドラ声の子にも、自信をもたせてあげたい。 ミュージカルなら、ダンスの上手な子とかセリフの上手な子とか、すべての子に役割を与えられるでしょう。どんな子どもにも光があたれば生き生きとやりますからね。 私も、小さいころ自信のない子どもでしたけど、うたうことによって、人前で話すことができるようになったし、性格も明るくなったんです。こうした感謝の気持ちで、これからも世の中のいろんな子どもたちのために頑張っていきたいのよ」 |
| ●プロフィール/かわだ・まさこ |
| 昭和9年生まれ。武蔵野音楽大学声楽科卒業。 7歳のころから童謡歌手として活躍。NHKラジオで「汽車ポッポ」「里の秋」「浜千鳥」「みかんの花咲く丘」「とんがり帽子」などを歌い、親しまれた。昭和54年、森の木児童合唱団を設立。平成13年には東京NHKホールで歌手生活60周年記念コンサートを開催。平成14年11月、文化庁長官賞を受賞。 68歳の現在も、合唱団の育成や各地のコンサートへの出演など、多忙な日々を送っている。 |